せん妄は、急性の意識障害や注意力の低下を特徴とする症状です。この記事では、薬剤、高齢者、術後、脱水、ストレスなど、様々な要因によって引き起こされるせん妄について、その原因、症状、予防策、そして適切な看護ケアを紹介します。最後まで読み進めてせん妄患者へのケアにいかしていただければうれしいです。
せん妄とは?基本的な理解と定義
せん妄は、急激な意識の混乱、集中力の低下、認知機能の低下を伴う状態です。高齢者や重篤な病気の患者は特に発症リスクが高く、急性のストレス、手術後、脱水状態、薬剤の副作用などが原因となります。せん妄のメカニズムは完全には解明されていませんが、脳の神経伝達物質のバランスの崩れが関係し、特に、ドーパミンやセロトニンの過剰または不足、脳血流の低下などが発症に関与しています。多くの場合、数日から数週間という短い期間で発症するのが特徴です。
せん妄の症状とその見分け方
せん妄の症状は、
- 思考や感情の急激な変化
- 昼夜の逆転
- 幻覚
- 認知障害など
があり、症状が正常な状態と混在することが特徴です。認知症と異なり、発症が急激である点が診断の重要な指標です。

高齢者におけるせん妄の原因と対策

高齢者は、せん妄発症リスクが高いため適切な予防策と治療が重要です。
高齢者に特有のせん妄発症リスク
高齢者は加齢に伴い、脳血流の低下や認知機能の減退が進むため、せん妄のリスクが増大します。また、複数の薬剤を使用していることや身体的ストレスが増える病気もせん妄発症のリスクを高めます。
高齢者せん妄の予防と治療
高齢者のせん妄発症予防には、リスク因子の把握が重要です。以下に予防策と治療についてまとめます。
- 環境の安定化
- 適度な照明の確保
- 脱水防止
- 定期的なリハビリテーション
せん妄治療は、原因に応じた対応が行われます。高齢者は、薬剤の代謝能力が低下していることが多いため、薬剤の投与量や投与間隔を慎重に調整します。また、複数の薬剤を併用する場合は、相互作用にも注意が必要です。定期的に薬剤の効果と副作用を評価し、必要に応じて投薬内容の見直しを行います。
高齢患者の家族が知っておくべきこと
高齢患者の家族は、せん妄が一時的な発症であることを理解して冷静に対応することが大切です。患者の感情に寄り添い、不安を和らげる声かけや環境を安定させることが効果的です。
薬剤によるせん妄の影響と看護

医療現場で使用される一部の薬剤には、せん妄を引き起こすリスクがあります。薬剤性せん妄は、慎重な薬剤の選択、投与量の調整、そして、綿密に患者の状態をモニタリングすることで発生リスクを最小限に抑えられます。
薬剤せん妄を誘発しやすい薬
鎮静薬や抗コリン作用を持つ薬剤は、せん妄を誘発しやすい薬剤です。特に高齢者は、代謝が低下しているため少量の投与量でも薬剤せん妄のリスクが高まります。薬剤によるせん妄の症状は、急激な意識混濁や興奮状態、不眠、幻覚などが挙げられます。しかし、その多くは、症状を誘発したと考えられる薬剤の投与中止や減量で改善がみられます。
薬剤せん妄への看護師の関わり方
看護師は、患者に使用される薬剤の効果と副作用に注意し、患者の状態を細かく観察することが大切です。患者の様子に異変を感じた場合は、必要に応じて医師に薬剤の調整を提案し、家族に患者の状態や変化について適切な情報提供を行いましょう。また、せん妄の症状や対応方法について家族に伝え、協力を求めることも安心感を与えるケアになります。
術後のせん妄とその看護ケア

手術後には身体的・精神的なストレスが原因でせん妄を発症することがあります。
術後せん妄の原因
術後せん妄とは、手術後に発生する急性の意識障害のことです。麻酔や手術に伴う身体的・精神的ストレスが主な原因となり、特に高齢者に多く見られます。術後の痛みや、長時間の臥床も術後せん妄発症のリスクを高めます。
術後せん妄の看護
術後せん妄の予防や症状の管理には、適切な疼痛管理が大切です。看護師は、定期的に患者の痛みを評価し、必要に応じて鎮痛薬を調整します。また、頻繁な声かけ、患者の不安や疑問に丁寧に応答し、安心感を与えるケアも効果的です。そして、適度な照明や騒音を取り除くこと、見慣れた物の配置など環境調整を行いながら、早期離床や日中の適度な活動を促しましょう。さらに、家族の面会や関わりで患者の精神的なサポートも重要なケアです。
術後のせん妄評価は、患者の意識レベル、見当識、注意力、思考過程などを定期的に評価します。特に、昼夜のリズムの乱れ、突然の混乱状態、不適切な言動や行動の変化に注意しましょう。また、せん妄リスク評価スケール(例:CAM-ICU)を用いて、客観的な評価を行うことも重要です。
脱水が引き起こすせん妄とその対応

脱水は、せん妄を引き起こすリスクになるため十分な注意が必要です。
脱水状態による身体的影響
脱水は、体内のナトリウムやカリウムの濃度に影響を与え、神経伝達や筋肉機能に支障をきたす可能性があります。また、脱水状態の血液は、濃縮され血流が減少します。そのため、脳への酸素や栄養素の供給が低下、脳機能に負担がかかり、せん妄発症のリスクを高めています。
脱水によるせん妄の症状
脱水が引き起こすせん妄は、初期症状に急激な疲労感や倦怠感、頭痛やめまい、口渇感などが現れることが一般的です。認知機能の面では、集中力の低下、短期記憶の障害、思考の混乱が顕著です。脱水によるせん妄症状は、年齢や健康状態、脱水の程度によって異なりますが、重度の場合には、幻覚や妄想、激しい興奮状態などの精神症状も現れます。
脱水によるせん妄症状の予防と看護
脱水によるせん妄を予防するには、看護師は、患者の水分摂取量を定期的に記録し、必要に応じて水分摂取を促します。特に高齢者や認知症患者は喉の渇きを感じにくいため、積極的な声かけと支援が重要です。また、室温や湿度の管理、適切な衣服の選択など、環境面での配慮も欠かせません。家族には脱水の危険性と予防法を丁寧に説明し、協力を求めましょう。さらに、尿量や尿の濃さ、皮膚の乾燥具合など全身状態を観察し、脱水の兆候を早期に発見することで重症化を防ぐことができます。
ストレスが引き起こすせん妄のメカニズムと対策

せん妄は、強いストレスが原因となって発症することもあります。ここでは、せん妄の発症に影響するストレスについてまとめています。
ストレスがせん妄発症に与える影響
強いストレスは自律神経系のバランスを崩し、脳機能に悪影響です。特に、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌増加が、認知機能や感情調節の障害を引き起こすリスクとなります。さらに、ストレスによる睡眠障害や免疫系の乱れも、せん妄発症のリスクを増大させます。
せん妄を予防するストレス管理
せん妄の予防には、リラクゼーションや適切な休息に加え、以下のようなストレス管理が効果的です。
- 規則正しい生活リズムの維持
- 適度な運動の実施(患者の状態に応じて)
- 瞑想やマインドフルネスの実践
- 社会的サポートの活用と対人関係の維持
これらを組み合わせストレスレベルの低減とせん妄リスクの軽減を図りましょう。
ストレスによるせん妄への看護
ストレス関連のせん妄に対しては、包括的なアプローチが効果的です。患者のストレス軽減を目的とした安心感を提供するケアを行いましょう。
- 環境調整:騒音の低減、適切な照明、見慣れた物の配置
- 薬物療法:必要に応じて抗不安薬や睡眠薬の適切な使用
- 非薬物療法:音楽療法、アロマセラピーなどの導入
- 家族の関わり:患者の不安軽減のための家族の支援と教育
上記のように、患者をとりまくさまざまな角度からのケアでストレスによるせん妄の予防と管理の効果が高まります。
せん妄患者とのコミュニケーション
せん妄患者との適切なコミュニケーションは治療の要です。患者の不安を軽減するだけでなく、症状の改善や混乱を最小限に抑える効果があります。
せん妄患者との効果的な会話

せん妄患者とのコミュニケーションには、優しく落ち着いた声かけを心がけ、患者が安心できる環境を作ることが大切です。患者の現実認識を尊重しつつ、ゆっくりと明確に説明することで混乱を最小限にしましょう。以下にせん妄患者のケアで活用すると効果的なコミュニケーションテクニックを紹介します。
- 目を見て話し、患者の注意を引く
- 複雑な説明は避け、簡潔で分かりやすい言葉で話す
- コミュニケーションを意識的に活用する
- 患者の言葉に耳を傾け、共感的な態度で接する
- 状況に応じて、時計やカレンダーなどの視覚的な補助具を活用する
これらのテクニックを適切に組み合わせながら、患者との信頼関係を築き不安や混乱が低減するケアを実践しましょう。
まとめ
せん妄は、多くの要因が複雑に絡み合って発症しますが、早期の予防と適切なケアで症状を抑えることができます。高齢者や術後の患者、薬剤を使用している方などはリスクが高いため、周囲のサポートが欠かせません。家族や医療従事者が協力し、せん妄を発症させないための適切な環境づくりやコミュニケーションを心がけましょう。