看護師は、緊急時に迅速な対応を行うために救急カート(エマージェンシーカート)の中身や使い方をしっかりと理解しておくことが必要です。救急カートには、患者の命を守るために必要な器具や薬剤が収納されており、看護師には、緊急時に迅速で正確な操作や手技で対応が求められます。この記事では、救急カートの中身の器具や薬剤の覚え方、背板の使い方について詳しく解説します。救急カートの重要性を理解し、適切な使い方を身につけ、看護師としてのスキルアップを目指しましょう。
救急カートの中身とは?
救急カートは、患者の急変対応や心停止、気道確保などといった緊急事態に対応するために不可欠な器具や薬剤を一括で管理するための医療用カートです。患者の命を守るために迅速に使用する目的で器具や薬剤が整然と配置されています。中には一般的に以下のようなものが収納されています。
*以下の内容は、一般的なものになりますので使用されているカート内を確認しましょう
- 1段目 薬剤 停止やアナフィラキシーなどに対応するアドレナリン、アミオダロンなど
- 2段目 輸液 ルートやシリンジなど
- 3段目 気道確保物品など
- 4段目 輸液やバックバルマスクなど 大きいもの側面に酸素ボンベや吸引カテーテルなど
救急カートの薬剤の覚え方と使用方法
救急カートには、心停止や意識レベル低下のような緊急時に使用される多種多様な薬剤が準備されています。緊急の場面で適切な薬剤を選択し、迅速に投与するためには、薬剤の作用と使用方法を十分に理解しておくことが必要です。以下に救急カート内の薬剤の覚え方を参考に理解を深めましょう。
救急カートの薬剤を効果的に覚える方法
①薬剤の分類ごとに整理する | 作用機序や使用目的に基づいて薬剤をグループ化し関連性を理解し覚える |
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②主要な薬剤とその作用を重点的に学ぶ | アドレナリン、アミオダロン、アトロピンなど、頻繁に使用される重要な薬剤に焦点を当てて覚える |
③実践的なシミュレーションを行う | 緊急時の状況を想定し適切な薬剤の選択と使用方法を実践的に学ぶ |
④定期的な復習と点検 | 救急カートの内容を定期的に確認し、薬剤の配置や使用期限をチェックし知識をつける |
これらの方法を組み合わせることで、緊急時に迅速かつ適切に薬剤を選択し使用するスキルを磨きましょう。
救急カートの主な薬剤とその作用
救急カート内の薬剤は、患者の生命を守るための特有の作用をもっています。以下に、主要な薬剤とその作用について説明します。
アドレナリン | 心停止時やアナフィラキシーショックの際に使用される重要な薬剤です。強力な血管収縮作用により血圧を上昇させ、心拍再開を促進します。また、気管支拡張作用や呼吸困難改善の効果もあります。 |
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アミオダロン | 主に心室性不整脈に対して使用される抗不整脈薬です。心筋の電気的特性を変化させることで不整脈を抑制し、心停止時の心室細動や持続性心室頻拍の抑制に効果的です。 |
アトロピン | 副交感神経遮断薬として知られ、主に徐脈の治療に用いられます。特に、迷走神経刺激による徐脈や洞性徐脈に効果があります。心拍数を上げる作用があり、循環動態の改善に寄与します。 |
リドカイン | 局所麻酔薬としての作用だけでなく、抗不整脈薬としても使用されます。主に心室性不整脈の抑制に効果的で、心筋梗塞後の不整脈予防に用いられます。また、疼痛管理にも使用される多目的な薬剤です。 |
ナロキソン | オピオイド拮抗薬として知られ、麻薬や鎮静薬の過剰投与による呼吸抑制の治療に使用されます。中枢神経系におけるオピオイド受容体に作用し、速やかな呼吸抑制を改善する効果があります。 |
救急カートの器具:気道確保物品とは?

救急カート内に準備されている気道確保に必要な物品を以下にまとめています。
挿管チューブ | 気道確保や人工呼吸を行うために使用。成人用のサイズは通常7.0~9.0mm。 |
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スタイレット | 挿管チューブの形状を保持し、挿入を容易にするために使用。 |
喉頭鏡 | 気管挿管時に気道を視認するための器具でサイズは通常3号または4号が一般的。 |
カフ用シリンジ | 挿管チューブのカフに空気を注入するために使用します。10mLが一般的。 |
バイトブロック | 挿管チューブの抜管防止や噛むことによる閉塞を防ぐために使用。 |
経鼻エアウェイ・経口エアウェイ | 舌根沈下などによる気道閉塞を防ぐために使用。意識レベルに応じて使い分けます。 |
バッグバルブマスク(BVM) | 人工呼吸を行うためのデバイスで、酸素供給が可能です。 |
これらの物品は、急変時に迅速かつ効果的な対応を行うために不可欠です。各病院や施設によって内容や配置は異なる場合がありますが、基本的にはこれらの物品が救急カートに含まれています。
救急カートの器具:輸液およびルート確保物品
次に救急カート内の輸液およびルート確保に使用する物品についてまとめます。
輸液
生理食塩液 | 細胞外液の補充や薬剤の希釈に使用され、心肺蘇生時やショック時には第一選択として用いられます。 |
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乳酸リンゲル液 | 循環血液量減少時の補給や代謝性アシドーシスの補正に役立ちます。 |
ブドウ糖液 | エネルギー源として使用されるほか、特定の薬剤の希釈にも利用されます。 |
ルート確保物品
静脈留置針 | 輸液や薬剤投与のために必要で、緊急時には太い血管への留置が求められることがあります。18G〜24G。 |
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駆血帯 | 静脈路確保時に末梢静脈を怒張させるために使用します。 |
固定用テープ | 静脈留置針を固定するために必要で、刺入部が見えるように固定することが重要です。 |
輸液セット | 点滴を行うための一連の器具で、点滴チューブやクレンメ(クランプ)、三方活栓などが含まれます。 |
消毒用アルコール綿 | 穿刺部位を清潔に保つために使用され、感染予防のために必須です。 |
急変時には迅速な対応が求められるため、物品の配置や使用方法を熟知しておくことが重要です。また、定期的な点検と補充も欠かせません。
救急カートの背板の使い方

救急カートの背板は、心肺蘇生(CPR)時に効果的な胸骨圧迫を行うための道具です。以下に、背板の使い方を簡単に説明します。
1.準備 | 背板は通常、救急カートの後ろに置いています。CPR時に備えて普段から正しい場所にあるか確認しましょう。 |
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2.患者の姿勢 | 背板を使うときは患者を平らな場所に寝かせます。これで安定した状態で胸骨圧迫ができます。 |
3.背板の設置 | 胸骨圧迫が必要な患者の背中の下に背板を入れます。このとき、胸骨圧迫を中断する時間をできるだけ短くすることが大切です。背板を使うと、圧迫の力が逃げにくくなり、より効果的に圧迫できます。 |
4.胸骨圧迫の実施 | 背板を入れたら、胸骨圧迫を始めます。両手を組んで、手の付け根を胸の真ん中に置き、真上から強く押します。圧迫は深く(少なくとも5cm)、速く(1分間に100回以上)行います。(出展元:JRC蘇生ガイドライン2020) |
5.注意点 | 背板を使うときは、圧迫した後に患者さんの胸がしっかり戻ることを確認してから次の圧迫をします。最新のJRC蘇生ガイドライン2020では、背板の効果について明確な証拠はありませんが、ベッドの上で胸骨圧迫をするときには必要な場合があります。 |
このように、救急カートの背板は心肺蘇生をするときにとても大切な道具です。正しい使い方を覚えておくことが重要です。
救急カートにおける看護の重要性と責任

救急カートの管理と使用は、看護師の重要な仕事の一つです。患者の心臓や呼吸が急に止まった時にすぐに対応できるよう準備しておく必要があります。
具体的には、
- 救急カートの中にある薬や器具の名前、収納場所、使い方を正確に覚えている
- 緊急時に必要な薬の量を素早く計算できる
- 気管挿管の介助や心臓マッサージなどの緊急処置を適切に行える
- チームメンバーと効果的にコミュニケーションが取れる
これらのスキルを持てば看護師として緊急時に冷静に対応する力が養われ、医療チーム全体の緊急時対応力向上にもなります。
まとめ
救急カートは、緊急対応を行うための重要な医療器具や薬剤が整然と配置されたカートで、急変時に即座に対応するために欠かせない存在です。救急カートの中身を理解し、各種器具や薬剤の使用方法、希釈・投与方法、管理方法を習得することは、迅速な患者対応に直結します。また、救急カートの日常的な管理も医療現場での安全性を高めるために非常に重要なことです。日々の実践や研修を通じて、救急カートに対する知識と理解を深め、確実な対応力を身につけていきましょう。