経験年数を重ねた助産師さんのなかには「スキルアップのために新しい資格を取りたい」「将来的に開業を考えている」といった人もいるのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは、骨盤ケアのスキルを活かして助産院の開業を目指す、助産師の橋積(はしづみ)なつきさん。忙しい仕事と子育ての合間を縫って、開業準備に奮闘する橋積さんに、助産院開業を決意した理由や今後のビジョンについてお聞きしました。
自身の治療体験をもとに患者さんの心に寄り添うケアを提供
−現在の働き方について教えてください。
静岡県御殿場市内にある共立産婦人科医院で、助産師として働いています。現在は週4〜5日ほど、外来でパート勤務をしています。
助産師歴は今年で13年目になり、現在の職場に勤務して2年半ほど経ちました。
−どのような業務を担当されているのですか?
外来で働く助産師は少ないので、妊婦健診に来た方への生活指導や母親学級、産後の1ヶ月健診などを担当することが多いですね。
生殖医療も取り扱う病院なので、体外受精を受ける方の採卵介助、服薬や自己注射に関する指導も任されています。
数ヶ月に一度は、病棟で分娩介助にも入っています。
−不妊治療のサポートには幅広い知識や技術が必要になりそうです。
以前勤務していた病院では、不妊治療に携わることがほとんどありませんでした。治療の種類や使用する薬剤、処置の介助方法などを覚えるのが最初は大変でしたね。
患者さんの状態に合わせて細かく治療内容を変化させていくので、今でも「こんな治療のパターンもあるのか」という新たな学びがあります。
−治療を受ける方へのメンタルサポートも重要ですよね。
やはり治療期間が長くなるにつれて、精神的に落ち込んでしまう患者さんは多いです。患者さんの心身にかかる負担を最低限にできるよう、丁寧で迅速なケアを心がけています。
とくに、体外受精をする女性の中には、採卵やホルモン剤の注射など、痛みを伴う処置を何度も受けなければならない方もいるんです。
私自身も不妊治療を経験しているのですが、痛みを堪えながら採卵しているときにぎゅっと手を握ってもらうだけで、すごく安心できるんですよね。
本当に基本的なことですが、患者さんの気持ちに寄り添った声かけをしたり、処置の最中には手を握って安心感を与えたりすることを忘れないようにしています。
実習で出産に立ち会ったことをきっかけに助産師の道へ
−看護職を志したきっかけについて教えてください。
もともと文系の女子大に通っていたのですが、「人の役に立てる仕事がしたい」と思うようになり、大学を中退して看護学校に入学しました。
助産師になろうと思ったのは、実習でお産を見学したのがきっかけでしたね。人生の中で最も大きなイベントとも言える出産をサポートしたくて、助産師になろうと決めたんです。
看護学校を卒業してからは、産婦人科病棟で働いたり、家業を手伝ったりしながら助産師学校に入学する準備を整えました。
その後、無事に助産師学校に合格し、32歳で念願の助産師免許を取得しました。
−長く助産師を続けていると壁にぶつかることもあったのではないでしょうか。
嬉しいことも辛いことも、本当にいろんなことを経験させてもらった13年間でしたね。
一番辛かったのは、自分が不妊治療をしていた期間の産科業務です。結婚後、7年ほど子どもを授かることができず、夫婦で不妊治療を受けていました。
仕事で妊婦さんや赤ちゃんを見る度に「なんで私たちの元には赤ちゃんが来てくれないのだろう」と、とても悲しく苦しい気持ちになりました。
不妊治療以上に辛かったことはないと思っているので、娘が生まれてから仕事や育児が大変だと感じることは、ほとんどありません。
−仕事と育児の両立に悩んだことはありませんでしたか?
以前勤務していた病院では、カレンダー通りの休みが取りづらく夜勤もありました。その頃は、子どもと過ごす時間が短いことが悩みでしたね。
これまで築いてきたキャリアを捨てるのは勇気のいる決断でしたが、子どもと過ごす時間を優先したくて、今の職場へ転職しました。
笑顔と癒しを届けられる助産院の開業を目指して
−治療と仕事の両立も大変だったと思いますが、助産師を続けるモチベーションになったことは何でしょうか。
私は助産院を開業するのが夢なんです。知人の紹介で大分県にある助産院を見学に行った際に「私もこんな助産院を作りたい!」と思ったのがきっかけです。
その助産院では、妊産婦さんや赤ちゃんに限らず、幅広い年齢層の女性を受け入れていました。院内には優しく穏やかな雰囲気が漂っていて、様々なトラブルを抱えて助産院に来たはずの方たちが、帰るときにはみんな笑顔になっているんですよ。
「助産師は、あらゆるライフステージの女性を助けることができる職業なんだ」と、とても感動した出来事でしたね。
家族で過ごす時間を増やしたいというのも、開業を志したきっかけでした。
夫は仕事がら生活リズムが不規則なので、私が外で働いていると、一緒に過ごす時間がなかなか取れません。
学校から帰ってきた子どもに「おかえり」と言える働き方がしたいという思いもあって、自宅で助産院を開業しようと計画しています。
−開業に向けて準備されていることはありますか?
見学に行った助産院の方に勧められて、「トコ・カイロプラクティック学院」で骨盤ケアの知識や技術について継続的に学んでいます。
トコちゃんベルトを考案したことで知られる渡部信子先生にお世話になっているのですが、開業する・しないに関わらず、助産師として働く上でとても役に立つスキルだと感じていますね。
ここで言う骨盤ケアとは、骨盤をはじめとする体全体の歪みを整えるための施術や、体操や骨盤ベルトの使用といったセルフケアを行うことを指します。
腰痛や尿漏れといったマイナートラブルを軽減する効果が期待されており、産前〜産後ケアの一環として、さまざまな医療機関で取り入れられているんです。
骨盤ケアに関する知識や技術は、妊産婦以外の女性や、乳幼児へのケアにも活用できます。
助産院を頼って来てくださる方々に、心身の状態やニーズに合ったケアが提供できるよう、開業までに施術の腕をしっかりと磨いておきたいです。
こちらは、友人のお子さんに「おひなまき」をしたときの様子。生後間もない赤ちゃんには重力に逆らえるだけの筋力がないため、おひなまきで姿勢を保ってあげると良いのだそうです。
赤ちゃんの背骨がCカーブを描き、体の中心がねじれたり手足が突っ張ったりしないようにくるんでいます。おひなまきをするときには、助産師などに正しい方法を確認してから行うと安心です。
まとめ:自身の不妊治療を乗り越え、理想の「助産院」開業を目指す助産師
長年の不妊治療を乗り越え、開業という夢を叶えるために助産師を続けてきた橋積さん。
現在は2024年度中に竣工予定である、自宅兼助産院の完成を心待ちにしているところです。
橋積さんがどんな素敵な助産院をオープンさせるのか、今後のご活躍がとても楽しみです。