モアブラシをご存じですか。一般の介護ショップなどで入手することができるので、目にしたり、実際に使ったりした経験がある方もいらっしゃると思います。では「使いこなせていますか」と問われたらいかがでしょう。「スポンジブラシと同じでしょう?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。モアブラシはスポンジブラシと比べて、格段に汚れの吸着性が高いため効率良く口腔内を綺麗にすることができます。また、口腔ケアと同時に口腔リハビリも可能な点がモアブラシとスポンジブラシの大きな違いでもあります。
口腔ケアだけでなく、口腔リハビリにおいても威力を発揮するモアブラシの魅力についてご紹介します。
モアブラシの特徴を紹介
なぜ「黒岩恭子の口腔ケア&口腔りがビリ」は食べられる口になるのか から引用
モアブラシは歯科医師黒岩恭子先生が開発した口腔ケアグッズの一つです。
写真は「くるリーナブラシ」シリーズといわれ、左から①くるリーナブラシ、②柄付きくるリーナブラシ、③ICUブラシ、④吸引柄付きくるリーナブラシ、⑤吸引ICUブラシ、⑥モアブラシ、⑦ミニモアブラシ、⑧ふぁんふぁんブラシがあります。
「くるリーナブラシ」シリーズは用途によって使い分けます。
①くるリーナブラシ以外は柄に弾力性があるためしならせることができます。口腔内は曲線なので、柄をしならせることで口腔内の壁面にブラシを密着させることができます。
毛先の柔らかい①くるリーナや③ICUブラシは、口腔内が過敏である、開口拒否がある方への口腔ケアに最適です。吸引器付きを用いれば、誤嚥リスクがある方にも安心して使用できます。
⑥モアブラシはスポンジブラシのように、口腔内の汚れを拭う際に用いますが、口腔乾燥が強い方の保湿や、舌や口腔周囲筋へのストレッチやマッサージを行うこともできます。
⑧ふぁんふぁんブラシはヘッドに細い繊維が多数付いていて、タンポポの綿毛のようになっています。口腔および咽頭の乾燥による汚れが強い方の咽頭ケアに使います。ブラシの毛を噛むと抜けやすく誤飲する危険があるため、一般販売されていません。購入するには黒岩先生らの研修を受ける必要があります。
モアブラシとの出会い
私のモアブラシとの出会いは、訪問看護師時代に受講した【Nursing Biomechanicsに基づく自立のための生活支援技術】(現在は実施されていません)の研修です。自立支援を目指す技術のひとつに口腔ケアがあり、黒岩先生から黒岩メソッドを学びました。その内容はモアブラシを含む、「くるリーナブラシ」シリーズ開発の経緯や、多くの事例を通して具体的な実践方法とその効果などです。実習ではオブラートを用いて乾燥した口腔環境を作り、研修生同士がモアブラシを用いて口腔ケアを行います。口腔ケアができていない状態で、食べることの危険性について、身をもって知ることができました。
その後繰り返し研修に参加し、受ける側から研修のサポートをする側になりました。黒岩先生に何度も会えるようになり、現場で実践してうまく行かなかった事例について、直接アドバイスをいただくことができました。さらに、黒岩先生のラウンドに同行させていただく機会も得ました。そこでは、先生が実際の対象者さんを観て何を観察し、どのようなアセスメントに基づいた援助がなされていたかを、間近で学ぶことができました。この経験によって、私のモアブラシを使った口腔ケア技術は格段に向上したように感じています。
黒岩メソッドとは何か
「くるリーナブラシ」シリーズを用いて行う黒岩メソッドを一言で表すなら「口腔ケアと口腔リハビリによってQOLの質の向上を目指す技」であると思います。ただ一時口腔を清潔にするのではなく、吸引を減らし、自分の力で清潔にできるように機能回復させ、安全に食べることを保障するのです。人が人らしく生きる力を守る技と言っても過言ではありません。
具体的には、姿勢を調整、口周囲の筋肉を柔軟にする、唾液分泌を促す、咳嗽反射を引き出して痰の自力喀出を促す、舌の動きを引き出す、などがあります。その結果として、口腔乾燥を防ぎ自浄作用にて清潔を保ち、誤嚥性肺炎を予防することができます。口腔へのアプローチは覚醒レベルを向上させ、口腔機能の維持向上は、話し続ける、食べ続けることを可能にします。こうしてQOLの質の向上に貢献できるのです。
モアブラシの使い方と口腔ケアの取り組み
ここからはモアブラシの使い方とケアの実際を紹介します。
患者設定
寝たきりで全身の関節拘縮が進行した高齢者をイメージして下さい。うつろな目で呼びかけても反応がありません。口唇は乾燥し、口腔にも乾燥した口蓋苔が付着しています。このような方への口腔ケアについて順を追って説明します。
モアブラシの使い方と口腔ケアの実際
①先ずは対象者の身体を軽く揺らすなどして全身の緊張を緩和します。私はその際、空気を60〜70%抜いたバランスボールを用いて身体の大きな関節周囲(肩関節・股関節・肘関節・膝関節など)を中心に振動を与えます。体幹を真っ直ぐにして、頭や肩などが寝具から浮いている場合は、バランスボールやタオルを用いて浮いている空間を埋めます。
②対象者の頬筋や口輪筋を、優しく揺らしたり、マッサージなどして緊張をほぐします。
③呼吸が楽にできるよう、鼻腔の掃除をしておきます。
④口唇に保湿ジェルを塗ります。
⑤モアブラシの柄に開いている穴が見えるように持ち、柄の細い部分がお辞儀をしているように曲げます。モアブラシのヘッドを水に浸してから軽く水を切り、ヘッドに保湿ジェルを満遍なく塗りつけます。ヘッド部分を口腔内に入れ、ゆっくり口腔内をマッサージするように動かします。口腔内の筋肉で硬い部分があればストレッチを行い、舌も上や舌尖、左右から押したり揺らすなどしてマッサージを行います。舌の下側にモアブラシのヘッドを入れて刺激すると唾液分泌が起ります。
口腔乾燥が強ければ、保湿ジェルを足していきます。口腔内が徐々に湿潤することにより、口蓋苔が浮き始めるので、無理矢理剥がさず少しずつ自然に剥がれるのを待ってブラシに絡め取っていきます。
⑥口腔内が乾燥している場合、咽頭も同じ状況である可能性が高いです。さらに唾液分泌を促しつつ湿潤させます。モアブラシを舌根に引っかけるように保持してしばらく待つと、咳嗽反射が誘発されます。すると保湿によって水分を含み柔らかくなった咽頭の汚れが、喉の奥に見え隠れするようになります。咳と共に上がってきた汚れをブラシに絡め取って口腔外に出します。
先にご紹介したふぁんふぁんブラシを用いると保湿もしやすく、喉の奥まで上がってきた痰もモアブラシより巻き取りやすいです。
痰を絡め取ったモアブラシは綺麗な水の中でゆすいだあと、ヘッドを水面から出して親指と人差し指で挟んで絞ります。絡め取った痰が落ちていくので、その性状を確認します。(ふぁんふぁんブラシも同様にします)
⑦歯ブラシなどにより歯のブラッシングも忘れず行います。
乾燥や汚れが強い方は、一度の口腔ケアで汚れが取りきれないことが多いです。患者さんが疲れないよう、何回かに分けて行います。
使い終わったブラシは、流水でしっかりもみ洗いして水を切り、ヘッドを上にして乾燥させます。汚れが目立つようであれば、熱湯でもみ洗いすると綺麗になり長く使用できます。毛が細ってきたら交換時期です。
このように、口腔ケア中は常にモアブラシで口腔内を刺激しているので、口腔機能のリハビリになり、食べること、話すことへのアプローチにもなっているのです。また、口腔内の刺激は覚醒レベルを向上させます。
私は訪問看護の利用者さんで誤嚥性肺炎を起こした方に、体位ドレナージなどを行いつつ、モアブラシとふぁんふぁんブラシによって排痰を促しました。あふれるほどの痰が出ていましたが、訪問介護や、ご家族にブラシの使い方を説明して、上咽頭付近まで上がってきた痰を出していただくようにしました。抗生剤の内服投与と呼吸管理の徹底で、吸引器をほとんど使わず、入院もせずに回復でき在宅生活を続けることができました。
モアブラシを使った口腔ケアを広げたい
口腔ケアや食べられなくなりつつある人へのケアで、素晴らしい威力を発揮するモアブラシですが、多くの現場で使われているとは言えません。これまで働いてきた現場や、出会ってきた看護師や介護士、STや歯科衛生士など嚥下にかかわる職種でも、モアブラシの存在や効果を発揮するための使い方を知っている人は少ないように感じます。それが残念でなりません。私は黒岩メソッドを学んで、自分の技術によって目の前の人の健康回復に貢献できることの喜びを教えていただきました。黒岩メソッドを、モアブラシやふぁんふぁんブラシをより多くの方に知っていただきたい。少しでも多くの人に黒岩メソッドを知っていただけるように働くことが、黒岩先生への恩返しだと考えています。
モアブラシを購入したい人へ
モアブラシは介護ショップや病院の売店などで購入することが可能です。その他Amazon、Yahoo!ショッピング、ASKUL、楽天市場などでも購入できます。
ふぁんふぁんブラシは、黒岩先生から指導を受けることで購入することが可能です。オーラルリハ社に直接連絡し研修を受けたことを伝えて購入します。
モアブラシの使い方を学びたい人へ
モアブラシを使いこなすために、黒岩メソッドをもっと詳しく学びたい方のために参考図書をご紹介します。
なぜ「黒岩恭子の口腔ケア&口腔りがビリ」は食べられる口になるのか デンタルダイアモンド社
解剖から学ぶ口腔ケア・口腔リハビリの手技と、その実力 デンタルダイアモンド社
・黒岩恭子の口腔リハビリ&口腔ケア デンタルダイアモンド社
ふぁんふぁんブラシを使うための研修を受けたい方は、村田歯科医院(神奈川県茅ヶ崎市白浜町2-8)に直接ご相談ください。→村田歯科医院の連絡先
この記事を執筆したライターの青木さんへ連絡をしていただいても大丈夫です。
メルアド:nskairos2023@gmail.com
まとめ
モアブラシなどを用いた口腔ケア黒岩メソッドを一言で表すなら「口腔ケアと口腔リハビリによってQOLの質の向上を目指す技」です。モアブラシはスポンジブラシと異なり、単に口腔を清潔にするだけでなく、吸引を減らし、自分の力で清潔にできるように機能回復させ、安全に食べることを保障するのです。是非臨床で、在宅で、モアブラシを使いこなしましょう。