病院以外でナースが活躍できる場のひとつとして、介護施設があります。施設で働こうかと迷うとき、「病院との違いは?どんな仕事をするの?」とナースの役割が気になるかもしれません。
この記事では、介護施設のひとつである「特別養護老人ホーム」のナースの仕事や、病棟勤務との違いを紹介します。
また、実際の勤務経験を通して対応が難しいと感じた点や、施設での看取りの特徴もあわせてお伝えします。施設勤務を検討する方は、経験談のひとつとして参考にしてくださいね。
特別養護老人ホームのナースの仕事内容
特別養護老人ホームとは、要介護者のための生活施設です。
介護が必要な方や、事情により特別養護老人ホーム以外で生活できない方が入所され、略して「特養(とくよう)」とも呼ばれます。入所者の詳しい情報はこちらをごらんください。(厚生労働省サイト)
特別養護老人ホームの主な役割は、以下のとおりです。(厚生労働省 介護老人福祉施設 資料1より)
- 入浴、排泄、食事等の介護を含む日常生活の世話
- 機能訓練
- 健康管理
- 療養上の世話
ナースの仕事は入居者さんの医療行為や処置、健康管理、体調不良時の対応などです。
私が勤務した特別養護老人ホームの勤務体制は、ナースは日勤帯のみ、介護職員は24時間の交替勤務でした。医師の往診は週に1~2回程度なので、電話連絡できる体制がつくられています。
ちなみに施設に勤務していた職員は、以下のような職種です。
- 介護職員
- ナース
- 医師
- 栄養士
- 理学療法士・作業療法士などの機能訓練指導員
- 介護支援専門員
- 生活相談員
- 施設管理職や事務職員
特別養護老人ホームは治療の場ではなく、入居者さんの生活の場。そのため、職員の人数配置は医療職は少なく、介護職員の人数が多いという特徴がありました。
病院と違い入居期間が長くなり、20年以上施設で生活する方もいました。
特別養護老人ホームに勤務してやりがいを感じたのは、本人や家族と時間をかけて関われるので信頼関係を構築しやすいこと、長い経過を見守れることです。
老化や認知症が進行する様子、看取りに至るまでの経過を学べる職場だと感じました。
健康管理
入居者さんの健康管理のため、内服管理や検温は看護師の大切な仕事です。検温は体調不良時や入浴前など、必要に応じて行います。
私が勤務していた特別養護老人ホームでは、入居者さん100名+ショートステイの利用者さん20名の対応をしていました。限られた人数のナース(日勤で3~4名程)で、多くの入居者さんの状態を把握する必要があります。
とはいえ、看護師だけで100名以上の入居者さんの状態を把握するのは難しいものです。日常のケアをする介護職員や、家族と関わりが多い生活相談員からの報告や情報を参考にするなど、多職種との連携に努めました。
食事、排泄、清潔などの日常生活援助は主に介護職員が担当し、ナースは体調不良時や急変時の対応をします。
体調不良の方が多ければナースは忙しくなりますが、入居者さんの体調が落ち着いていることも多く、ゆとりを持って仕事ができました。
医療行為や処置
私が勤めた特別養護老人ホームでは、以下のような医療行為や処置を行っていました。病院と比較すると、医療面でできることは限られるでしょう。
- 吸引
- 点滴・採血・血糖測定
- 心電図検査
- 酸素投与
- 排便処置
- 褥瘡や皮膚トラブルの処置
- 尿道カテーテル、人工肛門の管理
ショートステイの利用者さんは、上記に加えインスリン注射や栄養注入が必要な方もいました。ただし夜勤帯はナースがいないので、24時間の観察や医療的ケアが必要な方は受け入れられませんでした。
体調不良時の対応
療養生活中の入居者さんが体調不良になったとき、主に以下の対応をします。
- 医師への報告と指示受け
- 病院受診への付き添い
- 家族への連絡
施設への医師の往診は週に1~2回程度。発熱やおう吐など対応が必要なときは、医師へ電話連絡をして、指示を受けます。臨時の内服薬や点滴の指示が出ることもあります。
病院で治療を受けた方が良いと思われる場合や、検査が必要なときは病院受診をします。病院を受診するかの判断は看護師が行いますが、迷う場合は医師に相談しました。また、家族の意向も含めて検討しました。
受診する病院選びは、生活相談員とナースの役割のひとつ。家族の希望や、診療科によって受診先を決めます。家族が来院できない場合は、ナースが病院受診に付き添っていました。
医師不在時は、ナースや施設相談員から家族へ電話し、状態変化があった旨を連絡していました。
病棟勤務と施設勤務の違い
施設で勤務し始めた当初は、医療的な判断が問われる場面で何度も戸惑い、迷いました。以下の2つは病棟勤務とは違う難しさを感じた点です。
- 医師が常駐していない
- 夜間のオンコール当番がある
医師は常駐していないので、看護師が判断することが多くなります。たとえば発熱時に施設で経過観察してよいか、病院を受診するべきかを考えます。急変時は救急車を呼んで、付き添いもしました。
施設勤務では、オンコール当番があります。夜間入居者さんの状態に変化があり、介護職員が対応に迷ったときに電話がかかってきます。
たとえば、夜間に「何だかいつもより反応が鈍い」と報告を受けたとき。本人の観察が直接できないため、バイタルサインや報告内容だけでは判断が難しいと感じました。
それでも病院に搬送するかを決める必要があり、責任の大きさに直面しました。
とはいえ、1人で責任を担う訳ではありません。チーム内での共有や、振り返りを行い、夜間の状態変化時の対応を決める工夫をしました。
具体的には、発熱時やおう吐時、骨折が疑われるときなど状態別の対応を示したポケットマニュアルを、介護職員へ配布しました。また、介護職員に向けて酸素投与や救急車要請の練習をする研修を行いました。
上記のような工夫を繰り返し、夜間の対応を事前に決めておくことで、自分自身も迷いが減ったと思います。
病院とは違う、施設での看取りの特徴
施設で看護ケアを行い、病院と大きく違いを感じたのは、終末期にある方々への対応です。病院とは違う、施設での看取りの特徴は以下のとおりです。
- 医療機器の使用が少ない
- 施設で看取れない方もいる
- 介護職員との情報共有が大切
医療機器の使用が少ない
施設には医療機器が少なく、心電図モニターはありません。酸素投与は必要な方にだけ、在宅酸素の機器を使用しました。
病棟経験しかなかった私は、はじめは心電図モニターがない中での看取りに不安を感じました。状態の変化に気が付きにくいのではと、心配だったのです。
しかし、施設での看取りの経験を重ねるうちに、医療機器が少ないことの良い面を感じるようになりました。
アラーム音が鳴らないので、部屋はとても静かで焦った雰囲気はありません。心電図モニターの画面を目で追うことがなく、ご家族と一緒に本人の呼吸の様子を見守ることになります。
バイタルサインの変化は分かりにくいですが、むしろ本人の様子をじっくり観察することにつながると思います。病院とは違う空気感で、穏やかで静かな雰囲気の中、看取りをすることができました。
施設で看取れない方もいる
夜間に看護師がいない施設では、すべての人の看取りはできませんでした。たとえば以下のような症状がある方の看取りは難しかったです。
- 頻回な吸引が必要
- 呼吸困難がある
- 痛みが強い
- 下血・吐血がある
症状の緩和が難しく急変が予想されるなど、常に医療職がいた方がより安楽に過ごせる場合は、病院に入院の方向で話をすすめました。また、ホスピス病棟へ送り出し最期を迎えた方もいます。
長く入居されていた方の最期を看取れなかったときは、残念な気持ちや施設でできる限界を感じました。
介護職員との情報共有が大切
施設で看取りをするには、ナースと介護職員が情報共有することが大切です。ナースがいない時間帯に最期の瞬間が訪れることがあり、介護職員も状態を把握しておく必要があります。
医療職がいない中での看取りに不安を感じる介護職員もいるので、看取り時の対応を事前に決めておきました。
たとえば予想される症状を伝える、ケアの方法を共有する、家族や医師にいつ連絡するのかなどの詳細を決めておくなどです。
また、看取りを終えた後のカンファレンスでは、ケア時に感じた気持ちや改善点などを話し合います。
看取り後の気持ちを共有することで、ケアする人が癒される効果を感じました。改善点だけでなく良かった点を振り返る機会にもなったのでしょう。
まとめ
この記事では、特別養護老人ホームでのナースの仕事内容と役割、病院との違いについてお伝えしました。
病院と比べ医療職が少ないため、施設勤務のナースの役割は大きいと感じました。
医療的な判断が難しく迷うこともありましたが、チームで共有し解決できたので安心して働くことができました。
今後、特別養護老人ホームで勤務するか検討している方の参考になれば幸いです。