看護師が営業職に就いたら――。
アセスメント力など看護師ならではの能力が役に立ち、日々の顧客回りではメンタルが鍛えられて度胸が据わります。
子育てとの両立をきっかけに営業職に就いた私の格闘と成長の記録です。
土日休みを求めて未経験の仕事に
私は障がい児と健常児3人の子持ち看護師です。10年前、長男の中学校入学を機に看護職を1回離れました。その理由は、家族を優先するために、何としてもカレンダー通りの休みがほしかったからです。あれこれ悩むより行動派だったこともあり、即転職サイトに登録しました。そこから病院営業のスカウトが来てオンラインで試験を受け、2週間で内定通知ですが届きました。ご縁があったのは直行直帰型の営業職でした。
看護師経験が活きる病院営業
看護師資格が活かせる営業は、意外と多いです。
探すと治験会社や医療品メーカー、リネン類、栄養補助食品などさまざまな会社がヒットします。自分が好きな分野を、ケアを支える側から見るのは楽しい体験でした。
私はおむつのメーカーで、皮膚トラブルに対応した製品使用方法を提案していました。アセスメント力と商品理解が必要なので、勉強を続けるのは看護師とあまり変わらない日々でした。自分でも製品を何度も試して確認します。皮膚の自然治癒力に感動していた私には最適な職場です。好きな分野だと顧客と共有できる話題が多く前向きに提案をすることができます。また営業でありながら、こんなケアがしたいと語り合えるお客様に出会えたことも私にとって大きかったです。
転職は自分を取り巻く環境を変えるので、違う世界の仲間と出会えることは大きな魅力の一つだと思います。
もう一つの魅力は、希望がかなってカレンダー通りのお休みが取れるようなったということ。個人的には、交代勤務や夜間残業などの職場ルールって結構離職理由になると思っています。例外的な勤務もありますが、残業すれば、基本的に別日の勤務を調整できるフレックス制で、自由度が高いことも助かりました。実際に会社員をしていた数年間、子どもの行事には全て参加できました。条件と働きやすさがマッチすれば給与以上の魅力を感じる人もいるでしょう。事実、元看護師の営業職は社内にも結構いました。もちろん売上ノルマのような目標値に追われますが、自分の予定を自分で組み立てるのは大きかったです。
営業で鍛えられる部分は?
私は製品紹介から購入までの商談と、実際に使用する現場のサポートを担当していました。
受付から病院管理部、現場の全てに関わります。「話を聞こう」と思ってもらえないと次がなかったり、商談が止まったりします。でも初対面で話を聞いてもらえるなんて、飛び込み営業ではほとんどありません。運よく出会えても軽くあしらわれて終わりです。
相手に「会う価値がある」と思ってもらえないと仕事にならないという経験を何度もしました。相手が何を求めているかを話してもらうことが何よりも大切でした。そして全てがぶっつけ本番。よく言えば度胸がついたと思います。
やりがいでもあり、難しさでもある売上ノルマは会社によって異なります。上司に悪気はないのですがノルマに達成しない理由の説明を求められると、結構ドキドキしました。ありがたかったのは、数字だけでなく、行動で評価してくれる仲間に恵まれたことです。商談は、ない時は本当にないです。問答無用で成果が出ないことを怒られるような職場は、精神衛生上お薦めしません。私の意見ですが。製品が売れないと利益はでないので、プレッシャーとはお友達と考えましょう。
一人一人成果を出すことを求められるチーム戦という感じでしょうか。明確に数字化されてしまうのでメンタルが鍛えられました。
お客様に合わせるので帰宅時間が読みづらいことも、残念ポイントです。日勤後に現場で製品説明を希望された時は連日遅くなることもありました。逆に、全く現場に入らない日もあるので、メリハリをつけた調整で乗り切っていました。
話術だけではなかった、顧客引き付ける3つのポイント
そんな私ですが、営業のお仕事はとても楽しく、身体の不調により長時間の運転が難しくなるまで5年弱続けることができました。メンバーと顧客のおかげで社内売上1位を争ったこともあります。
調整や仕事の段取りを学べたおかげで、退職後は家庭と仕事を両立する負担感が軽減しました。そして初対面の人に意向を伝えるノウハウは、特定保健指導のカウンセリングや企画を通すときの準備に活きています。
特定保健指導では、40歳以上のメタボリックシンドローム予備軍への動機付けとして、健康状態と生活改善への指導をします。知識や方法はインターネットに溢れています。調べればできることを指導するのは特定保健指導ではありません。むしろ面談をすることでカウンセリング的な要素を求められているように感じています。できない理由や本人の受け止め方などは、営業と同じく数値では表せない面談力での把握が鍵になります。この人に本音を話そう、一緒にやってみようと思う過程は、営業で商談まで発展する流れとよく似ています。
営業職で顧客と信頼関係を築くのに役立った3つの学びを紹介
1つ目は売りつけないこと。
「何を当たり前な」と思いますよね。製品を購入してほしくて紹介するのに、売りつけない。つまり買ってくださいとは言いません。童話の「北風と太陽」のイメージです。北風がコートを脱がそうと風を吹き付けると旅人はギュッとコートを掴んで飛ばされまいとします。同じように、どうにか相手を説得しようとすると、かえって壁を作られてしまうのです。目指すは太陽、相手が身構えずに羽織っているコートを脱いで本音を出したくなる態度です。
私は良い製品の紹介役です。聞かれることには答えます、でも選ぶのは相手です。自分の思い通りでなかったとしても相手を受け入れる。言葉にするとシンプルですが、なかなか難しいです。この売りつけないことがかえって商談につながることが沢山ありました。
2つ目はわかりやすくシンプルに伝えること。
繰り返しになりますが、一瞬しか会えない方に、的確に伝える要約力です。きちんと説明したいときはその旨を伝え、相手が時間も気持ちも準備できるのを待ちます。仕事に臨む前の事前準備で、自分の考えを要約しておきます。
面談後には必ず、この面談で決まったことを言語化します。次回までの準備するものや先方に確認していただくことなどもお伝えします。口頭だけでなく、文書化してお渡しすると双方に伝言漏れを防ぐことに繋がり、認識を一致させることができます。
この面談で何が言いたいのか、目的は何なのかを常に意識すると、自分がすべきことはシンプルになります。また言語化することで明確に共有もできます。やったつもり、言ったつもりのすれ違いで不信感が生まないように意思疎通に対する配慮も学びました。一期一会の仕事は、私に1回のチャンスの大切さを教えてくれました。
3つ目はありのままでいること。虚栄を張らないことです。
どんなお客様でも、営業にニーズなどの事前データはほとんどありません。出会えた瞬間がチャンスです。伝えたい引き出しをいくつも持てるよう準備しますが、知らないことは知らない。頑張りたいことは頑張りたい。相手の地位が高いと、相手の要求に応えようとして背伸びをし過ぎることがあります。焦らない自分でいることが難しいときもあります。
できる努力はしても、現時点でのありのままでいる。できない自分を受け入れることも大切です。
端的に客観的に見ながらも、自分と相手を肯定的に見て、ありのままを受け入れる。冷静かつ温かい姿勢を意識することは、営業だけに限ったことではありません。振り返ると営業を体験する前は、無意識に自分の価値観で人を裁いていたように思います。
相手にこうなってほしいという思いが、結果として今のままでは駄目だというメッセージを発していたのかも知れません。他職種を通じて私が得た学びは、人としてとても大切な部分でした。転職のきっかけは自分優先でしたが、人生においては良き体験としてキャリアアップになってます。結局全ての経験が次の仕事につながって、特に面談が必要な場面での苦手意識は軽減しました。
最後に
個人的な体験からの助言ですが、いま転職を迷っている方がいたら看護経験や知識が活かせる医療ではない仕事に飛び込むこともお勧めします!
自分が呼ばれた場所が、今の自分を必要としてくれている場所。未体験の新しい世界でも良きご縁と学びに巡り合えますように。