看護師として働いていく上で、専門分野の看護を極め、専門看護師、認定看護師の資格を取るという道もあります。
2015年から始まった特定行為研修制度もその一つです。受講後に実際にどのような働き方ができるのか、糖尿病看護認定看護師で、特定行為研修を受け、広島市立北部医療センター安佐市民病院で活躍されている山﨑優介さんにお聞きしました。
特定行為研修を受けた山﨑優介さんにお話をお聞きしました
―ご経歴をお聞かせください。
子どもが好きで小児科で働きたいと考えて看護師になりました。大学卒業後、都内の公立の小児病院のPICUで勤務しました。しかし念願の小児科看護師になれたのに、働いてみるとうまくいかない。何をやってもうまくいかず先輩に叱られる日々でした。自分でも能力の無さを感じて悩み、約2年で退職しました。最後のチャンスと思い別の病院の小児科でも勤務しましたが、やはりうまくいかず2年足らずで退職してしまいました。「看護師は向いていないのかもしれない。もう看護師はやめよう」と思いました。次をどうしようという時に、デイサービスや訪問入浴のアルバイトをしたのです。そこで「こんな楽しい世界があったんだ!」と驚き、在宅看護に興味を持ち、訪問看護を始めました。
そこにはちゃんと自分の居場所があったのです。小児科だけを考えて4年間やってきたけれど、ガラッと世界が変わりました。私は勉強が好きなのですが、勉強したことがちゃんと患者さんの看護に活かされるということが感じられ、とてもうれしく思えました。訪問看護師として3年間勤め、2011年に地元の広島へ戻り、現在の安佐市民病院に就職しました。成人の病棟で働き、糖尿病看護認定看護師となり、2017年に特定行為研修を受け現在に至ります。
―訪問看護が楽しかったとのことですが、広島で訪問看護ではなく総合病院に就職されたのはなぜですか?
東京で訪問看護をしていたときに、在宅でみていた患者さんが入院し、状態が悪化して寝たきりになってポンッと在宅へ戻されることがよくありました。病院での看護や退院支援も重要だと考え、病院側で患者さんを支援することを選びました。
―現在の病院ではどのように勤務されてきたのでしょうか。
循環器内科・心臓血管外科・内分泌糖尿病内科の混合病棟に配属されました。主に心不全看護と退院支援を行い、当時の師長に鍛えられました。そのうちに師長から「あなたはスペシャリストの道を目指したら?」と勧められ、糖尿病看護の認定を取りに行かせてもらいました。そして病院に戻り、その1年後に特定行為研修を受けました。
当時広島で特定行為研修を受けた人は2人くらいしかいませんでしたが、当時の看護部長が、特定行為研修もやってみなさいと勧めてくれて行かせてもらいました。
その看護部長は皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC)の先駆けの人で、自分を導いてくれた人のひとりです。今、自分はそんな人になれるようにと目指しています。看護師になるんじゃなかったと後悔した時期もありましたが、訪問看護の所長さんや今の病院の師長、看護部長など多くの良い人との出会いに恵まれ、応援してもらい、本当に良い選択ができたと思います。
―特定行為研修はどのような感じでしたか。
いろいろな人やベテランの方と出会え、楽しかったですね。今まで学んだことないことを知り、身に付けられる喜びがありました。私は臨床推論や、学んだことを臨床の現場でどのように活かすのか考えることが得意で、楽しいのだと思います。「これはこういう時に使えるな」「あの時これを知っていれば良かったな」と考えるのです。
―糖尿病看護の特定行為の内容を教えてください。
主に血糖コントロールですね。私の病院では院内に公表している手順書に基づき、特定行為研修を受けた看護師が担当医師の診療下でインスリンの投与量の調整を行う包括的同意を取っており、私は主に外来の患者さんに対し血糖管理の支援を行います。
―現在の働き方を教えてください。
救急外来に所属し、夜勤もしながら週1回看護専門外来を担当しています。また、救急外来のスタッフに臨床推論やフィジカルアセスメントのアドバイス、病棟からのコンサルテーションもあります。糖尿病認定看護師・特定行為研修修了者として横断的な働き方を求められています。また、執筆や講演の依頼も受けています。
―山﨑さんの行う看護外来はどのような外来ですか。
若い1型糖尿病患者さんから高齢の方までさまざまです。最近は測定データをクラウドで共有することができるアプリや、CGM(持続グルコースモニタリング)といって身体にセンサーを装着し、持続的にリアルタイムで血糖変動を確認することができるものもあり、複雑な血糖管理を行うこともできます。ですので、週1回の外来ですが患者さんが来院しない時でもデータを確認し、電話をしてタイムリーに調整することができます。
―アプリや新しい機器を高齢の患者さんが使うのは難しいでしょうか。
それは年齢で判断できるものではなく、個別性ですね。医師がこの人にはインスリン注射は難しいだろうと考えても、私が看護外来でその人の希望や生活ぶりなどを詳しく聞いていく中で確信が持てたとき、「先生、この人はインスリンできますよ」と提案していくこともあり、それがうまくいくこともあります。
―患者さんを支援する中で大切にしていることは何ですか?
「人生をサポートする」ことです。例えば、インスリンを増やしてその人が不安になるくらいなら、私はまずその人と何が良いのか話し合います。血糖コントロールが良くなったからと言って、この人は糖尿病の管理のために生きているわけじゃないのです。ただ糖尿病を持っているだけで、普通に人生を歩みたいのだから、常にその人の人生であるという視点を忘れずに接しています。
―看護師の視点ですね。訪問看護師としての患者さんの生活を視るご経験も活かされていそうです。
そうですね。私の外来は、まず「この1か月はどんな良いことがありましたか?」など近況を聞き、笑いから始まります。話をよく聞き、その人の生活を知ることは大切です。常にその人自身の人生なのだと考え、患者さんの望みと治療に折り合いをつけながら病気のコントロールをしようと考えています。
―特定行為研修を受けて良かったと思うことはどんなことですか?
医学的知識が増えたことで、より一層患者さんの人生をサポートできるようになったと感じています。一回この薬使ってみようかって感覚になるんですよね。インスリン調整に留まらず、内服薬も含めて治療全体を考えていくことができます。血糖コントロールが悪い時、すべて患者さんの生活が悪いせいだと思わなくなりますし、そういったことも患者さんと話しますね。
―医師との関係性はうまくいくのでしょうか?
最初から任せてくれるドクターもいますが、何か提案をしても「そんなこと意味ないよ」とあしらうドクターもいます。この人(看護師)になら任せられるというドクターの信頼は、成功体験から得られる場合が多いと感じています。なので、私は「ちょっと騙されたと思って、先生、この薬入れてみて」と提案します。それがうまくいった時、次からドクターは私の意見を求めてくれたり、外来で患者さんに「あとは山﨑くんと相談してね」とか「ではこの後は山﨑くんを処方しますね(笑)」と言ってくれることもあります。
―やはり患者さんだけでなく、スタッフからも信頼されることはうれしいですね。
はい。それはもう素直にとてもうれしかったですね。
―認定看護師や特定行為研修を修了してお給料はどうなりましたか?
それについて特別な手当はありません。ただ、私の病院では認定をとると主任に昇格することが多く、役職手当がつくという形で評価されています。
―医師とは治療の場面で協力関係になっているということですが、他の看護師との関係はどうですか?
勤務している救急外来では、患者さんの病態や臨床推論、フィジカルアセスメントについて指導するなど頼られることがあります。経験の浅い看護師や異動してきた人が、「病態のことだったら山﨑主任に聞いたらいいよ」と言われて聞きにきてくれます。
―今後の目標や取り組んでいきたいことを教えてください。
バランスの良い看護師になりたいですね。看護師の対象はすべての人で、その特異性は、いろいろな病気や個別性を持つ患者さんに対して看護を行っていくことです。看護師はジェネラリストであり、その前提の上で自分はスペシャリストとして存在する。広く興味を持ち勉強することは看護師にとっては必要だと思っています。
このような考えになったのは、病院で出会った看護部長の影響が大きいです。専門に偏らず、常に看護師として広い視野を持ち続けるということを気づかせてくれました。「あなた糖尿病ばっかりやったらいいわけじゃないんだよ」って言われて。「専門だけでなく広く目を向け、耳を傾けて。そうじゃないと看護じゃないでしょ」と言われたことがとても腑に落ちました。その看護部長が私のロールモデルで、教育や研究、いずれは管理にも携わっていきたいと考えています。そのために今は大学院に行って、修士号取得を目指しています。
―最後に、これから認定や特定行為研修を受けようとしている看護師にむけて応援のメッセージをお願いします。
いろいろなことを理解し、できるようになることはやはり楽しいですよ。いつも私がつらい時に思い出す、Mr.Childrenの「終わりなき旅」という曲の中に「高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちが良いもんな」という歌詞があって、「僕が今見ている景色は頑張ってきた僕にしか見えない」と思うのです。だから、頑張ってきた人にはその景色が見える喜びがあると思ってほしい。
「あなたはうまくいっていていいわね、賢くて何でもできていいわね」と言われることがありますが、私も順風満帆だったわけじゃありません。辛い挫折もあったし、自分にもいろいろな人生がありました。その中で良い出会いがあり、背中を押されこうして今がある。もちろん、提供できる看護も増え、患者さんに感謝されることが一番の喜びであることは間違いありません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。看護師としてさらに一歩進んだ看護を提供できる特定行為研修を受けて活躍する道もあります。山﨑さんの言葉にあるように、看護師はすべての人を対象とするジェネラリストであるという意識を持ちながら、その中でのスペシャリストとなり患者さんをもっと支援してみませんか。そこで見える景色は、仕事の人生をより味わい深いものにしてくれるかもしれません。
広島市立北部医療センター安佐市民病院のHP
https://www.asa-hosp.city.hiroshima.jp/
‘‘「特定行為に係る看護師の研修制度」は、保健師助産師看護師法に位置付けられた研修制度で、2015年10月から開始されています。手順書により特定行為を行う場合は、本研修の受講が必要となります。研修を修了した看護師には、患者さんの状態を見極め、タイムリーな対応をすることなどが期待されています。“
日本看護協会HP 「特定行為研修制度とは」
https://www.nurse.or.jp/nursing/education/tokuteikenshu/portal/about/
特定行為研修を修了後は、医師の指示のもと、「手順書」内の病状に対し特定の医行為を行うことができます。糖尿病領域であれば、医師の包括的指示のもとインスリン量の変更を看護師が行うことができます。特定行為は38行為あり、特定行為研修の修了者数は、年々増加しており令和5年3月現在で6,875名となっています。