看護師経験18年、新たなチャレンジをしたいと考えていた時に出会った、写真を撮ること。思わぬきっかけで始めた写真の活動は、看護の仕事にも影響を与えてくれています。
私は現在、看護師×フォトグラファーという働き方をしています。カメラで人の生きている瞬間を写すことで、より看護の魅力を感じると共に、看護師プラスアルファの働き方の可能性を感じていただけるかもしれません。
看護師とフォトグラファーをするきっかけ
施設にいる祖母を撮影した後、家族へ写真を送った時のことです。母がその写真を遠方にいる親戚にも転送したことで、祖母に会えていなかった親戚から喜びの連絡が立て続けにありました。
写真1枚で家族が喜ぶ。祖母の「今」を写真に収めることが、人の生きる証を残すことにつながる事に感動を覚えました。
その出来事がきっかけで、写真の勉強を始めました。現在は看護師で働きながら、家族写真などの撮影をしています。
写真と看護の共通点
写真を撮ることは、看護に通じるものがあります。私の経験から考える共通点を、3つご紹介します。
1つ目は、状況に応じた対応が必要な点です。
次に相手がどう動くのか、何をしたいのか、今は撮るタイミングなのか。看護師にも必要な、周囲の状況や相手の気持ちを察する能力が求められます。
2つ目は、看護の文字にも入っている「看る」という視点です。
「看る」とは、注意して見る、見守るという意味がありますが、ナイチンゲールの看護覚書でも「看護は、病気を看るのではなく、病人を看る」と記されています。
写真は大切な瞬間を切り取るために、よく観察します。相手を注意して見る、という点が共通しています。
3つ目は、相手が望む形を表現できたときに感じる、やって良かったという達成感です。
手術室で勤務していた時、手術に対して不安を訴える患者さんを担当した時のことです。その方は、排便が毎日あるにも関わらず自分は便秘だと悩み、手術への不安が強くなっていました。病棟看護師に相談し、アロマで足浴をしながら術前訪問を行ったのですが、その日に排便があり、手術へ前向きな言動がみられるように変化していきました。
その方は身寄りがなく、便秘や手術が不安なのではなく、ただ快の刺激が不足しているのではないかと会話の中で予測しました。私が行ったケアが患者さんの笑顔につながった瞬間、とても嬉しい気持ちになったことを覚えています。
写真もそうですが、私ならこうして欲しいという「同情」ではなく、この人はこうして欲しいのではないかという「共感」で関わることが大切です。
病気や手術に関わる看護や在宅看護も、お祝い事も、人のライフサイクルの中でどれもが人生における大事な場面。私は看護も写真も、一方的なアプローチにならないよう心がけています。
写真活動が、看護の仕事に影響を与えた事
写真と看護を合わせることで、「この瞬間を写真に残し、人が生きる証を残したい」と思うことが増えました。はじけるような笑顔から何気ない日常まで、その人そのものを細かい視点で看るようになりました。
そのきっかけをくださった、ある乳がん患者さんがいます。写真活動を初めてすぐに知り合ったその女性は、癌で乳房を失ったあと、医師の手で再生された乳房の美しさをただただ残したいと感じ、カメラマンに撮影を依頼したそうです。
私が看護師×フォトグラファーをしていることを知ったその女性は「看護師というだけで心が安心する」と、私にも撮影をさせてくださいました。撮影しながら何気に会話した看護の経験や知識が、その女性にとっては大きな安心感につながったそうです。
今でもその方の撮影をさせていただく機会があるのですが、撮影の時間に色々な想いを話せることや写真を眺める時間が、その方にとって前向きに生きるために必要な時間だと、おっしゃってくださっています。
看護の経験を生かした撮影が人に与える影響は、思った以上に大きいと感じています。
看護師×写真で考える、今後の展開
乳がん患者さんとの出会いがきっかけで、手術前に胸の写真を残したいと思いながらも自撮りするしかない、と諦めている方がいることを知りました。写真に写すことで、前向きに治療に望むきっかけになれたらと思い、今後は乳癌患者さん専門の撮影も考えています。
また施設や在宅ケアで出会った、自分たちの命を繋いできてくれた年配の方の「今」の撮影を続け、「生きた証」になるような写真を残していきたいと思っています。
まとめ
様々な雑誌や企業のホームページでも取り上げられているように、看護師が活躍できる場所や方法は年々多様化してきています。
看護と写真を掛け合わせた働き方で、より看護にも広がりを見つけていけたらと思います。