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看護師という武器を携えて離島で挑む、新しい働き方「半官半X」【ナース図鑑】

島根県沖の離島海士町で、島独自の取り組み「半官半X」という仕組みを使って、看護師兼一次産業という働き方を実践している大山悠さん
島での充実した暮らしぶりと、ご自身の夢や仕事に対する熱い想いを語って頂きました。

笑顔の女性看護師

この記事はYouTubeの「ナース図鑑LIVEnow」のインタビュー動画をもとに、ナースLabのライターが作成しています。
動画を見たい方は「再生ボタン▶」をクリック!

目次

公務員看護師と農業の組み合わせ

ー現在の活動について教えてください。  

現在、週半分は看護師、残り半分は一次産業をやっています。木金は看護師(診療所・デイサービス)、月火は一次産業で牛や馬の世話などをしているといった感じです。 
これは島根県隠岐郡海士町で行っている働き方で、半官半Xという働き方です。半官半Xの官は役場の仕事。Xは個人の興味関心に基づいて個人の得意なことや趣味を活かしながら、地域に出ていき、地域で起こっている課題を一緒に解決していくという仕事です。 

ー半官半X! 面白そうですね。 

海士町は小さな町なので、どこも人手不足です。それなら先ず役場職員が町に出て、一緒に働きながら課題解決をしていこう、という発想から半官半Xという働き方が生まれました。半官半Xはできたばかりなので、Xの部分はまだ模索状態。私は看護師をしながら一次産業をやりたいという贅沢な希望があったので、前例がないなら自分で作ってしまおうと思い、半官半X課のある海士町に移住しました 

ー半官半Xの魅力は?

新しい出会いがあり、顔の見える関係が築ける。住民視線で具体的な課題も見えるので、役所の仕事にも活かすことができ一石二鳥です。公務員の身分を保持したままできるので、経済的な不安を感じることなく挑戦できます。 

看護師資格は武器であり最強の保険 

ー海士町にたどり着くまでの経緯を教えてください 

私は秋田県生まれの茨城県つくば市育ちです。高校卒業後は、静岡県にある大学に進学し、そのまま附属病院に就職しました。1年目はNICU、2年目が脳外科・救急形成外科の混合病棟、3年目にコロナ病棟ができ、そこに移動しました。オーストラリアに留学したかったので、もともと3年で辞めようと思っていましたが、新型コロナウイルス感染症の流行で留学ができなくなりました。そこで、離島でも生活したかったことを思い出し「今しかない!」と退職して、現在に至ります。 

ー夢を書き留めた夢ノートとは? 

私には学生時代からやりたいことや、野望のようなものが幾つもあって、夢ノートを作っています。そこには離島で暮らしてみたいとか、馬を飼いたいとか、書きためてある。私が持つ離島のイメージは、気候も人も穏やかで、自然豊かで、海が綺麗。休みの日には海に入ってのんびり過ごす、という感じでした。憧れませんか、そんな暮らし。それで、最初は暖かい鹿児島や沖縄地方がいいと思っていましたが、理想とする働き方とマッチしたのが海士町でした。どうしても1次産業をやりたくて。家に泊まり込みをさせてもらったほど好きなんです。 

ー看護師になった理由は? 

進路を決めるとき、農業をはじめ、やってみたいことは幾つもあったんです。その中で自分の働く姿が想像ができず、最も難しそうだったのが看護師です。一番難しいものを最初にクリアできれば、その後は何にでもチャレンジできる、と考えました。何か他のことに挑戦して困った状況になっても、看護師ならまた戻れるだろうという安易な考えもありました。汎用性のある看護師の資格を、私は人生の保険だと考えています。 

ーどんな臨床時代を過ごしましたか? 

もともと強い意志があったわけではないので、学生時代は勉強も嫌いで、最低限の勉強しかしていませんでした。就職しても1年目にNICUで働いたときは、閉ざされた環境が辛くて、性に合わないと思っていました。1年目の時に病み、人生って何だろう、人生って仕事をすることなのかな、とかいろいろ考えました。何で看護師になったのって我に返ったんです。自分のやりたいことにちゅうちょなくチャレンジするために、人生の保険として看護師資格を目指していたことを思い出しました。生命保険よりも強くて安全な資格。それなら看護師としての能力を、どこでも通用するレベルに高めておく必要があると思い、成人病棟に異動希望を出し、真面目に勉強するようになりました。目的が明確になったので苦しいことにも耐えることができました。 

ー今看護の仕事をどう思いますか? 

素晴らしい職業だと思っています。患者さんの一番近くにいて、自分のコミュニケーションひとつで相手が変わっていく体験を重ねて、看護の仕事が好きになりました。それなのに、周囲には辞めたいと思っている人が何人もいます。反面、看護師以外で働く選択肢がないと思っていて、疲れている人も多い。本当にそうでしょうか? 看護師の資格を取得したからといって看護師として働かなければいけない訳ではありませんし、選択次第でさまざまな世界があります。私はそのことを示したくて、この島で「看護師+一次産業」という、働き方の前例を作ることにチャレンジしています。大好きな看護の仕事と、その他の好きなこととのバランスを取りながら、どっちも望めることを証明したい。一度きりの人生で、もっともっと自分自身を大切にした働き方がある。看護師が自分を大切にして笑顔で働けたら、患者さんも元気を与えられるのではないかと思っています。

満たされた海士町の暮らし  

ー海士町の暮らしぶりを教えてください  

海士町は一次産業の町で、隠岐牛が町で放牧されています。人口2,400人に対して牛は600頭。道路だって牛が優先ですから、牛の町に住まわせてもらっているようです。私はシェアハウスで暮らしていて、公務員なので土日はお休み。休日は家の前の畑で野菜を育てたり、夏は素潜りで魚を捕ってきて刺身にしたりします。イメージ通りの暮らしです。遊戯施設はないけれど、そこにある資源の中で楽しみを見つけることが、島暮らしの醍醐味だと思います。

ー海士町の魅力を一言で言うと?  

「若者がやりたいことを、全力で支えてくれるまち」です。やりたいことを表明した時の、大人のバックアップ力が凄い。町長が「何でもやってみろ。やってみないとわからない」と応援してくれます。私が「看護師×一次産業で前例を作りたい」と言った際も、「やってみろ、応援するぞ」って背中を押してもらえた。都会では埋もれてしまうような存在も、海士町のように小さい町では出番が与えられて成長できます。 

島で働いてみて何が変わりましたか? 

時間に余裕があるので心が穏やかです。病棟で勤務していたころは毎日業務に追われて、目の前のタスクをこなすことで精一杯でした。「これって看護なの?」といつも疑問に思って悶々としていました。今は余裕があるので、ゆっくり患者(利用者)さんの話を聞くことができます。相手に寄り添うことができ、「ああ看護やれてるな」って思う。初めての感覚です。私に余裕があると、それは相手にも伝わりますから、お互いの関係性にも良い循環が生まれます。診療所やデイサービスで働いていますが、ベビーシッターを頼まれることもあります。若者に優しい町だから出生率が上がって、小さい町なのに待機児童が増えたんです。一次産業で活動していても、健康相談を受けることがあります。やっぱり看護師の資格って最強です。いろいろな出会いがあって、毎日飽きません。 

看護師×●●●を増やしたい 

ーイベント展開中なんですよね? 

そうなんです。看護師×●●●、看護師をしながら自分の好きなことや、得意なことをする人を海士町で増やしたいです。看護師自身が元気に働けることで、周りの人にも良い影響が伝わっていく。そんな波紋を起こしたいのです。これまで4回のオンラインイベントを行いました。7、8月には来島ツアーをします。実際に来ていただいて、海士町の空気を肌で感じていただきたいです。看護師×●●●の働き方いいな、離島・海士町いいなと思う方は、気軽に来てもらえると嬉しいです。看護師資格を利用してやりたいことがある人にとって、ここは最高の環境です。そういう新しい働き方を、小さい島から全国に広げていきたいと思います 

笑顔の女性看護師

オンラインイベントのURLです。興味のある人はぜひ参加してください。

https://smout.jp/plans/10819?fbclid=PAAaaqsFB-bFBy0CHCE4jHB9i2chpGGj8SNfmglSgqDA-uzl41_y3rBs0bTgg

ーがんばる看護師に一言お願いします! 

看護師の皆さん、まずは毎日お疲れ様です! 大変な仕事ですが、私は臨床から距離を置いてみて、看護は素晴らしい仕事だと改めて感じています。皆さんも自分の強みである看護師資格を武器にして、人生を楽しんでほしいです。 

ー最後にこれからの夢を 

やっぱりオーストラリアに行きたい。看護師として留学する、と夢のノートに書いてあるんです。夢ノートに書いてあることは、見返してみるとほぼ叶っています。だからきっと叶うと信じて、今できることに全力で取り組みたいと思っています。

(インタビュアー:西山妙子)

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この記事を書いた人

看護師暦30+α年。NICD学会認定看護師。病院・重度身体障害者施設・訪問看護ステーションなどを経験。フリー看護師。CANNUS新長田。クリニックでのパート勤務や介護学校講師、ライターなどで活動中。「紙屋克子氏のナーシングバイオメカニクスに基づく生活支援技術・黒岩メソッド(口腔ケア)を世に広めたい!」

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