「何もわからず勢いで起業しちゃったんです」
笑いながらそう話すのは、株式会社Medi Blanca代表取締役の横山佳野さん。
病院勤務を経て起業しSoi Nurse(ソイナース)という新しいサービスをスタートさせました。「経営はやりながら学ぶ」とポジティブに突き進むスタイルが印象的な横山さん。
その裏にある苦労や、看護師の働く環境への想いを語っていただきました。
この記事はYouTubeの「ナース図鑑LIVEnow」のインタビュー動画をもとに、ナースLabのライターが作成しています。
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看護師の職場環境への疑問から選んだ起業の道
-自己紹介をお願いします。
障害児や医療的ケア児を含めた全ての子どもたちを看護師が預かる、Soi Nurseというケアリングサービスの会社を経営しています。ケアリングサービスというのは、訪問看護のように必要な看護ケアをおこなうことと、ベビーシッターのように自宅で保育をすることを指しています。
-看護師としてのキャリアを教えてください。
大学病院の腎臓内科で3年、ICUで2年間働きました。合計5年働いたあと専門病院に転職しました。そこで(業務が)すごく楽になって「ラクして働いてお金がもらえる」という理想の働き方ができたんですよね。
でも、だんだんと「自分が頑張ってきたものが壊れてしまうんじゃないか」と思うようになってしまって。
そこで起業してみようかなと漠然と考え、退職しました。
-起業を考えるきっかけはなんだったんですか?
元々すごく看護師になりたかった訳ではなかったんです。それで病院で働いていた時に、看護師特有の人間関係だったり、どんなに質の良い看護をしても認められず給料も上がらなかったりしたことで、病院での「働く環境」が嫌なんだと気がついたんですよね。
これを変えられないかなと漠然と思ったのがひとつです。
もう一つは、友人から「子どもの熱が出たら保育園に預けられない」と聞いたことです。
なぜ母親ばかりが仕事を休まなくてはいけないのか、なぜベビーシッターに預けるのは悪とされるのか、「子育て環境」にとても疑問をもちました。
そこで、もし看護師が子どもを預かることができたら、と思ったことがきっかけですね。
「仕事を楽しんでキラキラしている」看護師業界を出て知った衝撃
-最初は何から始めましたか?
経営者の会に参加しました。
それまでは看護師業界しか知らなかったので、全然違う業種の人たちの中に入って関わりを増やしました。
-違う環境に飛び込んでみてどうでしたか?
会社がもっと儲かるようにと思いながら働いているっていうのが結構衝撃でしたね。
世の中にこんなに自分の仕事を楽しんで、キラキラしながら働いている人がいるんだって。
看護師で病院のために働こうと思っている人って少ないと思うんです。
働いていれば、頑張ろうが、そうでなかろうが、お金はもらえるじゃないですか。
でも会社を経営している人は仕事を取りに行かなきゃいけないので、ひとつひとつを大切にしているなってすごく思います。
自分も起業してみて、お客さんを獲得するのはすごく大変ですし、営業先を開拓していかないと収入源がなくなってしまうので、それをすごく実感しています。
病院で働いている方が楽だなって思いますけど、でも今の仕事はやりがいはありますね。
「それはやっぱり違う」医療的ケア児と母親の厳しい環境
–事業を始めるにあたって小児科の経験はありましたか?
全く経験がなかったので、まずはアセスメントができるようになろうと思って小児科クリニックで働きました。他にベビーシッターや保育園で働いて、とにかく子どもと関わろうと。自分が教えられないと信用されないなと思って毎日頑張って勉強しています。
-実際に始めてみてどうでしたか?
最初は、病児保育を広めていこうと思っていました。
しかしいざ始めてみると、障害児や医療的ケア児(以下、医療的ケア児)のご家族からの問い合わせが圧倒的に多くて「こっちだったんだ」と思いました。
これはやってみないとわからなかったことでしたね。
医療的ケア児は市区町村から「前例がない」「看護師がいない」と言われてしまって保育園に預けられない状況があるんですよね。
預けられる保育園を探すにも、とても労力がかかってすごく大変なんです。
お母さんが仕事を辞めて今までのキャリアを捨てなければならないのは違うなと思っていますね、私は。
「死ぬこと以外かすり傷」で飛び込んだからこそ得られた経験
–一番大変だったことはなんですか?
「死ぬこと以外かすり傷」の精神でやっていかないと結構やっていけなくて。
本当に何もわからず起業しちゃったので毎日全部大変です。
お金をどうやってつくるかっていうことを考えるのも大変だし、経営のこともわからないし。最初はエクセルも全く使えなかったので資料を作るにもすごく時間がかかるし、人に恨まれたり裏切られたりもしたし。
起業してから本当に大変なことばかりです。
でもそれ以上に自分が成長できたなということもあるし、メンタル面でも経験値は格段に増えています。
看護師として働いているだけでは得られなかったことです。
すべての子どもたちと看護師が健やかであるために
– 「健やかに生きる社会をつくりたい」というメッセージを掲げていますね。
健やかに生きるってすごく理想的じゃないですか? 理想だけど難しい。
医療的ケア児を含めどんな子どもでも預けられる環境を作るためには、看護師がどうしても必要です。保育と看護の両方ができる看護師が全国に増えると、保育園や児童福祉施設で働く人を増やすことができます。
そうすると、障害があっても集団生活を送ることができるようになる。
子どもとその家族にとって良い環境を与えられるんじゃないかなと思っています。
そして、看護師にとってももちろん働きやすい場所であってほしいと考えています。Soi Nurseは一本で働くというよりは、ここで働いて自分の強みを見つけたり、新たに強みを作って活かせたりする場所と思っていただきたいんです。
自分のスキルにあった報酬がもらえるようにすることや仕事で評価されることで、モチベーションを維持できる場所でありたいと思っています。
一度臨床から離れてしまうと、なかなか働きたいと思えない看護師も多いですが、Soi Nurseは出産や子育てをしている方たちにとっては子育て経験と看護師経験両方を活かせる場です。ここで働きながら看護師の仕事が楽しいなと思えたら、また病院や施設で働こうと思ってもらえたらいいですね。
それから、キャリアに迷っている人こそ「小児を看られるようにしませんか」って思っています。成人も小児も看られると自信に繋がると思います。子どもは言いたいことを言えないのでこちらで感じなきゃいけないじゃないですか。なので、看護師の第六感的なものがすごく鍛えられると思っています。
迷っている人は一緒に小児をやりましょうと私は強く言いたいです。
– 小児の経験がなくても大丈夫ですか?
子どもが好きならまったく問題ないです。
私たちの提供しているサービスは、日々の仕事で達成感と幸福を感じられます。
例えば、今日はお母さんの役に立ったとか、子どもがかわいいなとか、自分の介入がうまく伝わったなとか。
今まで私自身が看護師をやってきてそういうふうに感じられることってなかったので、是非皆さんにも味わって欲しいなと思います。
– 隙間時間で働けるんですよね?
1回の依頼が3〜4時間のことが多いので、夜勤明けや空いた時間に少しだけ働くことができます。最低週1回で大丈夫です。
今は看護師が全然足りなくて、需要はあるのに依頼をお断りしている状態です。困っている子ども達はたくさんいるので力になっていただければと思います。
―今後の展望を教えてください
今は関東圏だけですがどんどんエリアを増やしていきたいですね。全国の看護師さんが楽しく働ける場を作れたらと思います。
インタビュアー:松井英子
ライター:平岡聡美